約款とは、企業が、多数の顧客と同種の取引を迅速に行うために、事前に定型的に定めた契約条項のことをいいます。
多くの事業者が約款によって取引していますし、倉庫寄託約款もその一つです。
それは、倉庫事業者と寄託者との間の「契約」そのものですから、倉庫寄託約款が適用されるためには、約款による契約をするという「合意」が必要です。
ところが、実際の倉庫取引では、入庫申込書等の記載を求めることはあっても、取引の都度、約款を印刷したペーパーを作成して代表者同士で記名捺印したりはしないことが多いようです。
最初の標準倉庫寄託約款が告示されたのは昭和34年(1959年)で、実務では、多くの人が約款があることを意識せずに取引をしてきました。中には、自社の約款がどのようなものか、あらためて検討したことがないどころか、見たこともない関係者もいらっしゃるでしょう。それでも、日々の倉庫寄託取引に、「約款」は適用されているのでしょうか。
普段の取引で約款が必要になることはあまりありませんが、大きなトラブルがあって裁判になると、約款が適用されるかされないかで、倉庫事業者の責任や立証責任などについて、大きく状況が異なります。
というのは、寄託物に問題が生じていたとして、倉庫事業者は、無償寄託であっても保管に際して善管注意義務を負いますから(商法595条)、善管注意義務違反が存在しないことの立証責任を負いますが、約款によれば、倉庫事業者が賠償責任を負う損害は、倉庫事業者側の故意又は重過失によるものであることを、寄託者側が立証しなければならないのです(改正約款43条)。
このため、倉庫約款が適用されるかどうかが争点となった裁判例があります。
東京地裁平成15年12月9日判決は、「本件約款は,運輸大臣に届け出たものであり,被告の受付や東京第2工場のカウンターなどに備え付けて 掲示してあること,被告から原告への入庫通知書には,本件約款に基づいて入庫手続が 完了した旨の記載があることなどの事実が認められることからすれば,原告が,本件約款の存在及び内容について現実に認識していたか否かを検討するまでもなく,本件寄託契約には,本件約款の適用があると認められる。」と判示しました。
他方、水戸地裁龍ヶ崎支部平成31年2月27日判決は、「被告は,原告に対し,本件契約を締結するにあたって本件約款の存在や内容を示した事はなく,原告において本件約款が適用されるという認識を有していなかったものと認められる。したがって,本件契約について本件約款を適用することはできないと言うべきである。」と判示しました。
つまり、商人同士の取引では、倉庫側が約款の存在を認識して、事業所に約款を書いたペーパーを掲示し、入庫通知書など寄託者側が必ず見るであろう書面に約款による取引であることが書いてあるなどして、「寄託者も知らなかったはずがない」という状況の中で取引をしていれば、それは約款による取引であることの「黙示の合意」があったと評価されるのでしょう。
ですが、倉庫側が約款の存在を認識すらしていなかった場合には、黙示の合意も認められず、約款の適用はないのです。
標準倉庫寄託約款は、倉庫取引の実情に対応するべく運輸省・国土交通省が定めた一般的なルールです。
ですから、倉庫事業者としては、個別契約を結んでいないとしても、すべての取引に約款が適用されるよう、約款の存在と仕組みを理解して、寄託者が「約款なんて知らない」なんていうことができないように、事業所に約款を書いたペーパーを掲示して、ホームページにも記載して、入庫通知書や、寄託者が目に触れる書類に、取引が約款に基づくものであることを意識させるようにしましょう。

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